10月7日にニュージャージー州ジャージーシティーの大会ホールで開かれた毎年恒例のものみの塔協会の年次総会(株主総会)で、ものみの塔協会の管理機構に大きな改変が行われたことが発表されました。同じ内容は、ものみの塔協会の広報用ウェブサイトでも発表されました。
本ウェブサイトの「エホバの証人の組織と活動」の記事に解説されているように、ものみの塔とエホバの証人の宗教は、「ペンシルバニア州ものみの塔聖書冊子協会」(Watch Tower Bible and Tract Society of Pensylvania)とその子会社、「ニューヨーク法人ものみの塔聖書冊子協会」(Watchtower Bible and Tract Society of New York, Inc.)の二つの法人(会社)によって経営されてきました。これらの会社の経営陣、すなわち会長(社長)、理事などの役職は全て宗教上の最高権威者である統治体員が占めてきました。従って13人から成る統治体員とものみの塔協会の会長(ミルトン・ヘンシェル)は宗教権威の上でも、会社の実務の上でも最高の権威と責任を独占してきました。
今回の変革では、ミルトン・ヘンシェルは会長職を退き、13人の統治体員も全員協会の理事を辞職し、新たにドン・アダムスを協会の会長に据え、理事や法人の役職も全て「他の羊」と呼ばれる油塗られた者以外の証人が占めることになりました。年次総会の席上で、統治体員の何人かが演壇に立ち、なぜ今回このような変革をすることになったかの説明が行われました。それらの話を総合すると、宗教上の権威である統治体は人が選んで任命するものではなく、油塗られた残りの者でなければならないが、会社の経営は必ずしも油塗られた者が行う必要はなく、「他の羊」に任せても構わないこと、これによって統治体は教義や宣教の仕事に専心できること、が理由として語られました。
更に今回の年次総会では新たに三つの子会社が設立され、これまでのものみの塔協会の業務を分散することが発表されました。これらの子会社の正式の日本語訳は、いずれ協会の出版物で発表されるでしょうが、第一の会社はChristian Congregation of Jehovah's Witnesses(エホバの証人のクリスチャン会衆)と呼ばれ、会衆の実務、集会、宣教などの業務を担当し、第二の会社はReligious Order of Jehovah's Witnesses(エホバの証人宗教機構)と呼ばれ、ベテル奉仕、特別開拓者、旅行する監督などに関する業務を扱い、第三の子会社はKingdom Support Services, Inc(王国支援局)と呼ばれ、各地の建造物の設計施工の業務を担当します。
なぜこの時点でものみの塔とエホバの証人の中枢はこのような改造を決意したのでしょうか。年次総会で演壇に立った統治体員ダン・シドリックは、聖書にはこれらの会社の経営を油塗られた者が行わなければならないとは書かれていない、と述べていますが、今までの全ての「新しい理解」と同じように、そんなことはずっと以前から分かっていたことで、何も統治体に「光が増し加わる」ことがなくても誰でも常識でわかることです。それにもかかわらず、ものみの塔協会とエホバの証人の統治体は歴史的に見て渾然一体として宗教上の教義や活動と一緒に、莫大な資産の運用、管理、と出版業務を支配して来ました。しかし組織が拡大し複雑になるにつれ、老朽化した13人の統治体員だけでは到底手におえなくなっていることは、最近の多くの統治体援助者の登用によっても明らかになっていました。今回の組織改造は老朽化した統治体を会社実務から離し、彼らは教義上の決定に専心し、会社実務はより若い層に引き渡す狙いがあるようです。
その一方で、アメリカの大会社の歴史を見ると理解できるように、会社がある程度大きくなるとその業務と責任を幾つかの子会社に分散させることは、法的、財政的に見て多くの利点があることも間違いありません。その中で大きな問題となるのは、組織の責任の分散化でしょう。世界各地で元エホバの証人やその家族が、被害の賠償を求める集団訴訟を起こす動きがある中で、これまでの体制では統治体は宗教的な側面では訴追を免れても、会社の最高責任者としての訴追を免れることは難しいと考えられていました。今度の組織改造では、統治体はもはや会社の最高責任者ではなくなり、今後予想される訴訟に対して先手を打って統治体をそのような危険から隔離する狙いもある、と考えられています。
(10-29-00)