輸血拒否に関する方針転換に関するその後の情報−続報

輸血拒否に関する方針転換が、ものみの塔協会自身の報道発表や世界各国の報道記事で明らかにされてから一ヶ月以上がたち、どうやらその全容が明らかになってきました。

日本、アメリカなどの大部分の国々では、この通達は支部から巡回監督への手紙の形で知らされていますが、各会衆に対しては巡回監督が口頭で通達している模様で、どれだけ詳細が末端まで行き渡るかは疑問と見られています。未だに一般のエホバの証人でこの方針変更の話を正式に会衆から聞いたという報告は入っていません。

今回の方針変更の骨子は、輸血を受ける罪を「排斥事項」から「断絶事項」に変えたことです。どちらの処分も家族友人から絶縁されるという結果に変わりはありませんが、「断絶」では事実が確認されれば、処分はほぼ自動的に行われ、「排斥」のように本人を交えた何度もの審理を経て「判決」に至る過程はとりません。これまで「断絶」の行われた例は、自分から届けを出す他に、兵役に入る場合と他の宗教に入る場合が最も多い理由であり、今回輸血を受けることが、これらの「自動的脱退」の理由に加えられたことになります。

ものみの塔協会がこの時点でこのような手続き上の変更に踏み切った真の理由は明らかではありませんが、協会がヨーロッパを中心にしたエホバの証人の輸血拒否に対する各国政府や法律関係者の批判をかわし、今後予想される訴訟に対する予防線をはったという見方が有力です。1998年のブルガリア政府との調停を含め、これまでものみの塔協会はヨーロッパを中心に、輸血拒否という死に至る決断を「排斥処分」という処罰により強要するという批判にさらされて来ました。ヨーロッパの主要国がこの問題を人権問題として深刻に取り上げる中で、ものみの塔協会は今回の通達を盾に、今後は「輸血を受けたエホバの証人はその行為によって自分で脱退したのであり、協会は排斥処分はしていない」、と開き直る理由ができたことになります。また最近の一連の動きに共通して、法的な責任を協会と統治体の中枢部から、末端の会衆や信者個人のレベルに移す動きにも一致しています。すなわち今後輸血拒否による法的な問題が起こった場合、協会はそれに巻き込まれず、むしろ実際に係わった会衆の長老や個人に責任をもっていこうという路線です。

一方この新しい方針を一体どのように運用するのかについては、末端の会衆でも不明な点が多いようです。特に最近の6月15日号のものみの塔誌の記事により、血液の主要成分以外の分画の全てが使用可能になったことにより、この問題は深刻になる可能性があります。例えば簡単な例を考えてみましょう。エホバの証人のA子さんは、子宮内膜症の手術の為に病院に入院し、輸血をしないという確認書の元で手術に入りました。腰椎麻酔で手術に入ったA子さんは、意識がありましたが、予想しなかった大出血のために止血のために血液製剤を使用しなければ死ぬという状態になり、医師は最後の手段としてA子さんが承諾していない血液製剤を使用したいと申出ました。夫に離婚され、2才と3才の小さい子供たちを抱えるA子さんは、自分の死は覚悟していたものの、後に残された子供たちのことを考えると自分の決断で子供たちまで不幸にする権利は自分にはないし、協会も最近大部分の成分を受け入れていいと言ったことだし、と考えて医師の申し出を了承しました。A子さんはそのお陰で命をとりとめ、無事に回復して退院できました。

さてこの例で、会衆はどのようにしてA子さんを「断絶」することができるでしょう。もちろんA子さんが会衆の長老に、私はこのような血液製剤を受けました、と報告すればこの行為は会衆の知る所となります。しかしA子さんの受けた血液製剤が、協会が受けてはいけないと決めた「分画」に当たるかどうかは誰がどのように決めるのでしょうか。病歴を閲覧することもなく、医学知識の全くない長老達がどのようにしてそれを確認してA子さんを有罪とすることができるのでしょうか。そして仮にA子さんが何事もなく退院して手術の詳細に関しては誰にも話さなかったとしたらどうでしょう。それでもA子さんの会衆の長老の奥さんであるB子さんが手術の直後に病室に見舞いに来て、A子さんが「赤い血液のように見える」注射を受けていた、とB子さんの夫である長老に報告したとしましょう。この長老は一体どのようにしてA子さんが受けていた「赤い血液のように見える注射」が、協会が禁じている「分画」に当たると確認できるのでしょうか。多くの血液製剤は「赤い液体」に見え、外見だけで判断することは不可能です。これは担当医が病歴を見せて、その製剤の実際の内容を素人に分かるように説明して始めて確認出来ることですが、この長老はA子さんのこのような医療上の秘密を暴く権利があるのでしょうか。

このように考えてくると、今回の方針変換は今まで既に複雑で混乱していた輸血拒否の方針をますます混乱させることになるでしょう。協会がこの方針変換を末端の会衆まで徹底的に行き渡らせないことも、そのような混乱に拍車をかけることになるでしょう。このような混乱の中で更にエホバの証人の死者が出た場合、このような混乱を放置しておいた協会と会衆の責任は問われるべきでしょう。協会はこれを避けるためには、世界中に出回る全ての血液製剤や血液を使用する治療に関して、ちょうど正統派ユダヤ教徒がコーシャ食品に関して「承認済み」のレッテルをはるように、「ものみの塔協会承認済み」のレッテルでも貼らない限り、医師、患者の間の混乱は広がるばかりでしょう。患者の権利を擁護する立場にある医師の側からすれば、今後エホバの証人の血液製剤による治療に関しては、医療上の秘密を徹底的に守る必要が出てきたといえるでしょう。そのようなプライバシー保護の元で、会衆の長老がA子さんのような患者を「自動的脱退」にした場合、プライバシーの侵害、あるいは根拠のない差別として長老達の法的な責任が追求されることになるでしょう。

いずれにしても、今回の方針変更は長老達の判断と責任を大幅に広げるものであり、思慮を欠いた長老の勝手な判断がエホバの証人たちの生死を左右するという状態が出て来る可能性を残しています。またエホバの証人を批判する立場から見れば、今後は協会を相手に訴訟を起こすことを考えるより、会衆の長老や監督に対して彼ら個人の責任を追及する訴訟を起こす方向へ転換していく可能性が考えられます。逆にエホバの証人の立場から見れば、長老や会衆は今後責任追及の矢面に立たされる可能性があり、輸血拒否問題に関してますます慎重な行動をとる必要が出てきたと言えるでしょう。 (7-16-00)


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