日本で行われているエホバの証人のカウンセリングプログラム

最近、日本のエホバの証人の一部の人々が、内部で行われているカウンセリングプログラムのテキストを、インターネット上で公開しています。詳細は「エホバの証人Q&A」のサイトにある、「試験的に始まっているエホバの証人のカウンセリングプログラム」を参照して下さい。同じ内容の文書はこのリンクでも見ることができます。

エホバの証人の内部での精神疾患の問題は、輸血拒否と並ぶエホバの証人の深刻な健康問題であり、これに関しての記事の必要性が迫られていました。組織の精神疾患に関する教えが不適切な場合、信者の自殺者が出ると言う点で、輸血拒否の方針と同様、「死に至る教義」である可能性があるからです。今回、これらのエホバの証人の方々のお勧めもあり、このウェブサイトにも「エホバの証人と精神疾患」という記事を新たに掲載し、この問題を詳しく解説しました。非常に長い記事で少し専門的なことも書いてありますが、上のカウンセリングのテキストを理解する背景としてお読み下さい。

このカウンセリング用テキストは「インナーチャイルド・プログラム―傷ついた内なる子供をどのように癒すか」と題されており、子供時代の精神的な痛手(トラウマ)に基づいて起こってくる精神疾患の治療の中で、民間の自己治療(ポップサイコロジー)、あるいは心理療法士の治療の一部として使用されてきた方法を、エホバの証人の患者たちに適応しているものです。この治療は、心理療法士ではなく、ものみの塔協会の日本支部と関係しているエホバの証人である内科医たちが直接行っているそうです。上に紹介した「エホバの証人Q&A」にも書かれているように、この治療が、エホバの証人の体験によって子供時代に傷ついた人々への治療を目指していることは、テキストを読むとよくわかります。

インナーチャイルド療法の信憑性と有効性については、ここでは論評できませんし、治療が実際にどのように行われているのか、どのような患者が集められているのか、もわかりまんので、以下の論評はあくまで推測と仮定に基づくものであることを了承下さい。しかし、もしこのプログラムが本当にものみの塔協会の日本支部の認可の下で行われているとすると、いくつかの興味ある問題点が浮き彫りにされます。まず、「エホバの証人と精神疾患」の記事でも詳細に紹介したように、ものみの塔協会は精神療法を長年の間エホバの証人に対して禁じており、最近でも精神療法は「この世の知恵」であり哲学やキリスト教世界と関連して、避けるように教えてきました。このインナーチャイルドの治療法は、正統的なフロイドによる精神分析療法ではありませんが、子供時代の無意識の深層心理を分析して治療に使う点で、カール・ユングの分析的心理学やエリック・バーンの交流分析に近いものです。しかし精神医学の治療法の中では、フロイドやユングのような確立した治療法とはみなされておらず、むしろ交流分析から派生したポップサイコロジー的色彩が強く、その評価は意見の分かれる所です。いずれにしても、このような異論のある分析的治療法こそは、ものみの塔協会が言う「この世の空しい知恵」の代表と言えるでしょう。また、インナーチャイルドの治療法は、キリスト教関係(ものみの塔の言うキリスト教世界)の心理療法士によって多く使用されており、このテキストはエホバの証人の教義に合わせて書いてあるものの、かなりの部分はキリスト教関係の考え方の影響を受けています。(その意味では、キリスト教世界にもポップサイコロジーの乱用の傾向の問題があることは認識されるべきでしょう。)一般にポップサイコロジーの多くは宗教的色彩が強く、「バビロンの空しい知恵」がエホバの証人の社会に導入されていると言えるでしょう。

しかしその一方でもし、ものみの塔協会がこのような治療を後援しているとすれば、エホバの証人の社会に蓄積した精神疾患の問題、特に傷ついた二世の証人達の問題をついに認識して、こっそりとではあっても、何らかの救済の努力を始めた可能性があります。これは、遅ればせではあっても多くの苦しむ病人にとっては喜ばしいことでしょう。協会としては、一般の精神療法を全てエホバの証人の患者に開放することは、組織の矛盾を悟らせる危険な知識の導入につながり、仕方が無く「バビロンの空しい知恵」をエホバの証人に合うようにアレンジして、エホバの証人の医師を使って「安全性」を確認しながら試用している、というのが現状かもしれません。しかし、このようなやり方は、どうしても今までの協会の精神疾患に対する姑息な態度の範囲を抜けきれません。「エホバの証人と精神疾患」にも詳しく書きましたが、患者の治療法を決める判断には、精神神経科の医師が関与することが第一です。その上で、このような民間療法に適した患者と、正式な精神療法や薬物療法の必要な患者を見極めた上で夫々の治療法に進まない限り、誤った治療による病状の悪化と死を避けることは出来ないからです。ものみの塔協会が今までの誤った方針を撤回し、内部の精神病問題に正面から取り組むことを、エホバの証人とその関係者は更に要求していく必要があるでしょう。

(3-23-02)