ヘモグロビン製剤の広範囲臨床試験が開始される―エホバの証人への波紋

人のヘモグロビンを製剤化したポリヘムが本年2月から、アメリカの幾つかの大都市で広範な臨床試験に入りました。この製剤は、人の赤血球から外側の膜を取り去って内部のヘモグロビンだけを取り出して安定化させたもので、細胞膜がないために抗原抗体反応が起こらず、血液型に関係なく輸血できます。また今まで一般に使われている濃厚赤血球製剤に比べて、長期の保存がきくことから、交通事故現場で出血ショック状態にある患者への超緊急の輸血に適した製剤として、多くの期待がかけられています。

今回始まった臨床試験では、交通事故や銃弾による怪我で出血ショックにある患者を、その事故現場で無作為にポリヘムの注入、または今まで同様の脈管内容量維持のための生理的食塩水の注入に割り当て、ポリヘムの治療を受けた患者たちの生存と回復が、生理的食塩水を受けた患者たちに比べてどれだけ有意に優れているかを調べるものです。現在アメリカでは、年間約10万人の患者が緊急の輸血が間に合わず死んでいると言われ、ポリヘムはこのうちの多くの患者の救命ができるであろうと期待されています。

このポリヘムの使用にに関して、エホバの証人は幾つかの重要な問題を抱えています。まず、ものみの塔協会はこのポリヘムの使用を、拒否しなければならない治療には指定していないことです。常に禁じられてきた赤血球製剤の99%を占めるヘモグロビンは受け入れて構わないということは、あたかも、エホバがリンゴを食べてはいけないと命じたのに対して、ものみの塔協会は「絶対にリンゴは食べません、でも外側の皮をむけば中身は全て食べても構いません」とエホバに報告しているようなものです。このものみの塔の滑稽と言える教義は、確かに笑って過ごせるとも考えられますが、これが一瞬のうちに人命を左右するとなると、笑いごとでは済まされなくなってきます。今回の臨床試験は、アメリカの幾つかの大都市を選択していますが(コロラド州デンバー、テキサス州ヒューストン、ミネソタ州ロチェスター、テネシー州メンフィス、そしてこの編集者の住むオレゴン州ポートランド、他数都市)これらの都市では、住民に対する大規模な説明会が行なわれ、エホバの証人など輸血に問題がある宗教団体にも承諾が取られています。この臨床試験の規定では、住民の中でこの臨床試験に参加したくない人、すなわち万が一交通事故で大怪我をしてもポリヘムの治療を受けたくない人には、特別の腕輪が渡されて、その人たちは今までと同様の治療を受けることになっています。現在までの所、普段はどんなことがあっても輸血を避けるようにエホバの証人に指導してきたものみの塔協会が、エホバの証人にこの腕輪をしてポリヘムによる治療を避けるようにと指導している様子はありません。

もう一つの興味ある問題は、この臨床試験の結果です。今までものみの塔協会は「無輸血治療」で全てが解決するかのような宣伝を繰り広げ、輸血による危険の方が大きく、輸血をする意味はないこと、無輸血治療を行う多くの医者を宣伝に使って、あたかも全ての問題が無輸血治療で解決するかのように教え、多くのエホバの証人もこれを信じてきました。今回の臨床試験の結果はどうなるかわかりませんが、この臨床試験に参加する半分の患者たちは、少なくとも事故現場では今までと同様の無輸血による脈管内容量増大の治療を受けるわけで、無輸血治療が事故現場から救急病院へ運ばれるまでの10分ぐらいの短い間でも、有効かどうかが科学的データによって明らかにされるでしょう。もし、これだけ短時間の間でも無輸血治療により死者が増えているとしたら、ものみの塔が教える徹底した無輸血治療によりどれだけの多くの死者が今までに作られてきたかが、データに基づいて計算されるはずです。この臨床試験の結果に注目したいと思います。

(2-29-04)