「感傷と感謝」

(4-18-04)


去年、最後の報告用紙を提出して、そして忽然と消滅しました。電話番号も変え、携帯も
変えました。何度もノックをされましたが無視しました。二十年の月日ののちに私は社会
に戻りました。恐怖はありませんでした。二十年は長いですが、損をしたとか、何か取り
戻せるものがあるか、とかいう考えはないからです。物事は自分の思い通りに動かせるも
のではないし、何十年も連続して楽しんで生きるなんてことは誰にもありえません。みん
なおおかたの時間を苦労して、思い通りに行かないはがゆさなどを経験してきているはず
です。むしろJWの中で抑え付けられてきた分、人間関係を読む目ができたので、学校じ
ゃできない勉強ができた、と思います。ヴィクトール・エミール・フランクルという精神
病理学者さんの著作やカレン・ホーナイという精神分析学者の著作のいくらかを読んで、
そう納得できました。これはつよがりではありません。現に中年になって一から出直すべ
く、組織から離れたのです。エリスというカウンセリング心理学者の紹介された「論理療
法」という考え方に感銘を受けました。日本では国分康孝という先生が一般向けにもいろ
いろ本を書いておられます。物事を正しく解釈し直す、という内容のものです。JWがな
ぜ心理学や哲学をクソみそにけなすのか、よく分かりました。JWのものの考え方、生活
態度がいかに神経症的か、いかにうつ病体質かを明らかにしているからです。今は本当に
自由な気持ちです。思ったほど苦ではありませんでした。一人ではさみしくていてもたっ
てもいられないというのは人間として十分に大人になりきれていないからです。人間はた
とえ結婚していても一人になる時間が必要なのだということも学びました。今はホーナイ
の残りの著作をなんとか見つけて読みきろうと思っています。さすがにもう今から大学へ
行って研究することはできませんが、しかし発表された著作を読んで理解することは可能
です。この自分のやりたいと思ったことで、現実に可能なことを見つけておこなってゆく、
ということが自己実現ということで、人間はそういう自己実現でいきがいを満たすものだ
ということです。なんだか素人が知ったかぶりをしましたが、もう今じゃ古い学説なんで
しょうか?もしそうだったら大恥ですね(苦笑)。でもいいです。それで自分が納得でき
るんですから。

ただ好きだった姉妹への未練で切なくなることはあります。でも人生というのは出会いが
あれば別れがあるものです。こちらから人に関わってゆけばまた出会いがあるでしょう。
いまはもうどんな人でも私はかなりの程度、相手の立場に立って物を見ることができます。
ですから出会いも多いです。これはやはりJWでの経験を無駄にせず、教訓を引き出して
きたからだと思います。だてに年食ったわけでもないです。私は、組織を出たいけれども
恐いという人々にこう言いたいです。まず、自分が何をしたいのか、それをよーく見てく
ださい、と。何をしたいのかさえわからないと思いますか。カルトのマインド・コントロ
ールを受けてきたのですからそれも無理はないのです。本音に嘘をついて生きていると、
うれしいとか楽しいという感情が分からなくなるそうです。恐ろしいことです。だからと
にかく失敗して当たり前なんだから何でもやってみなと言いたいです。そのうちきっとあ、
これだ!思えることに出会えます。引っ込み思案なのは後天的に作られた性格です。歪ん
だ価値観の人々からの自分に対する歪んだ評価を受け入れてしまったことでそうなる、と
いうことです(よね?村本さん?)。交流分析というカウンセリング技法では性格はいつ
でも何歳からでも変えられるということを実践しています。とにかく一度限りの人生です。
自分の気持ちに正直に行きましょうや。苦労が生きる楽しさを実らせるんです。こんな事
いうと宗教じみて来ますね(汗;)。でもJWの教えなんかよりはずっとましな説教です。
チャンスはいくらでもありますよ。勇気出して一歩踏み出してください。世の中は広いで
すよ。村本さん、貴殿のご苦労の産物のようなこのホーム・ページのおかげで目が醒めま
した。心より感謝いたします。貴殿のご苦労は決して無駄ではありません。少なくとも私
が救われました。本当にありがとうございました。

《編集者より》
このウェブサイトが、あなたの人生に役に立ったとすれば、それがたとえあなた一人だけだとしても、私にとっては限りない喜びです。ただ、あなたがここまで来られたのは、あなたも書かれた通り、精神分析の本を読みながら人の心の働きを自力で学ばれたからでしょう。多くの元証人が、単に「目が醒めた」だけで、混乱とショックから立ち直れなくなるのに対し、あなたは冷静に物事を判断され、的確にもこの問題の本質を心の医療の問題として捉えることができたからこそ、最後の報告用紙を提出した後、きれいに縁を切って直ぐに新しい人生を積極的に生きることが出来たのではないでしょうか。あなたの生きかた、見方は、元エホバの証人の生き方のひとつの形として、大変興味を持って読ませていただきました。またよかったら、詳しい経歴を教えて下さい。きっと長い二十年であったと思います。


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