「組織とマインドコントロール」

(10-15-03)

 初めてお便りを差し上げます。
 現在48歳になる元エホバの証人二世です。2000(平成12)年の3月にエホバの証人
の組織と交わるのを辞め、以後このホームページを参考に母に脱会を進め8月に母ととも
に断絶しました。その後、母との交流をたちましたが、このホームページは常に拝見して
おりました。私は以前からマインドコントロールの影響の程度に疑問をもっていましたの
でこのお便りを差し上げることにいたしました。
 1967(昭和42)年に、夫のいないために昼間は公務員として働いている母がエホ
バの証人の宣教者で近隣の会衆の監督であったハンサムな妻帯者に魅かれて研究を始め、
中学1年生になったばかりの私も同時に参加しました。当初、私は組織や教えを新鮮に感
じましたので積極的に参加し会衆の模範的な子供になりましたが、やがて週3日5回の集
会と週1〜2回の伝道活動への定期的な参加に「飽きて」きたこと、集会で教えられる内
容と中学の教育内容との非整合性に気づきはじめたこと、会衆のほとんどのメンバーの言
動に裏表があり倫理的な教え(例えば正直さ、思いやり、謙虚さなど)を実践していない
ことがわかり始めたこと、母は自分の名誉のために出版物や会衆で教えられることをすべ
ての生活に当てはめることを要求するが十代の自分にとってそれはとても困難であること
(母は注解した事を実践するように強く要求した)、(母子家庭特有なものかもしれない
が)エホバの証人の男性が一般的な目標とする「男らしさ」に欠けるために魅力がないこ
と、などの理由から、私は不定期になり不活発になり始めました。ところが、母は自分の
名誉のために私の不定期・不活発と反比例的に集会・伝道活動への参加を強く要求するの
で、あつれきが生じ、私はいわゆる非行に走っていきました。すると、研究司会者のその
監督は「バプテスマが近づくと身内の中から邪魔する者が出てきます」と注意を喚起しま
したが、母は私の不定期・不活発行動(母が集会に行けと口やかましかったのでやむなく
行った)と非行による名誉の失墜が自分のバプテスマを邪魔していると解釈し、私をサタ
ン悪魔の手先であると、少なくとも家庭内では公然と口に出してののしり始めました。母
はバプテスマを受けましたが、あつれきはますます大きくなり、私の不定期・不活発行動
も母の私への「サタン悪魔の手先」攻撃も続きましたの。
 当時は1975(昭和50)年に終わりの時が来るという教えが最大のスローガンでありま
したので、学校教育は否定され、短大や大学はむろんのこと、高等学校さえも定時制に通
って昼間は開拓奉仕をするという若者が続出しておりました。母は、非行を改めたものの
学業成績が悪く集会への参加が不定期(この頃にはもう伝道には出なかった)な私を高等
学校へ行かせたくないと思い、私に中学を卒業したら高等学校へ進学せずに働くように言
いました。自分も中卒だし、義務教育は中学までなのだから後は自分勝手に生きていくが
良い、というのです。けれども、会衆の一部の姉妹たちや中学の先生の働きもあってよう
やく高等学校へ進学することができました。
 高等学校卒業後、自立し公務員として働き始めた私は母との関係を修復したく思い、再
びエホバの証人の世界にしっかりと浸かる決心をしました。1975(昭和50)年に私
はバプテスマを受け、母との友好関係は続きましたが、終わりが来なかったことには疑問
を持たず(あえて疑問を持たないように意識しました)、むしろ、やがて同世代の若者に
不公平な扱いがなされていることに疑問を感じ始めました。親がエホバの証人の子供の多
くは定職につかずに開拓奉仕に従事していますが(悪い意味で)要領がよくエホバの証人
の世界での世間慣れしており、暇な時間をたくさん持っておりました。一方、自分から志
願してエホバの証人になった者や私のような母子家庭の子供は、食べていくためにどうし
ても定職を持って稼得活動をしなくてはなりません。会衆や組織では前者が厚遇され、後
者は冷遇されます。男女を問わずひとりで定職について自立して生活を営む人が、夫の稼
ぎで生活しているために働いて生活するのがどれほど大変かわからない年長の姉妹をはじ
めとする会衆の圧力に屈して、定職をやめ、アルバイトのみで開拓奉仕に従事する兄弟や
姉妹が信仰が強いといってもてはやされておりました。実態は、資格も学歴も乏しい自立
した兄弟や姉妹たちが生活苦の中で熱心に開拓奉仕を続けているというものでした。
 1978(昭和53)年、大型の国家資格を取得し開業しその事務所でエホバの証人の
兄弟や姉妹を雇ったり無料で資格取得の教授をすることを目標として、エホバの証人の活
動をやめて働きながら勉強に専念することにしました。母との間の友好関係はここで立ち
消え、またあつれきが生じ始めました。そのうちにエホバの証人への復帰の願望は消失し、
国家資格取得後、さらに勉強の意欲が生まれて1982(昭和57)年に夜間の大学へ通
い、定職もやめてアルバイトで学費と生活費をまかないながら昼間の大学院へと進みまし
た。博士課程修了後、国家資格による開業は時間と労力を費やし研究時間が取れなくなる
ことから開業をあきらめ、アルバイトを続けながら大学への専任の職へのアプライを続け
ました。その間、指導教授や先輩とのトラブル、教員採用での不当な扱いなど数多くの困
難に遭遇しましたが、母はそのたびに「やっぱりそうか、どうせサタンの世の中なのだか
らうまくいきっこないと思っていたよ」と言って意気消沈させるばかりでした。学費や生
活費の支援も一切なく、懇願したときも「組織の教えに反するから援助しない」の一点張
りでした。
 1997(平成9)年に教員公募で採用され生活は安定しましたが、長年の無理がたた
って、翌1978(平成10)年の秋に体調を崩しました。「死」を間近に感じ、すべて
のものがむなしく思え、自分の「生」が非常にきわどいところで保たれている、生かされ
ていると感じ、消失した充実感を埋めるために私の知る限りの神であるエホバ神を再び求
め、エホバの証人の世界に戻ることになりました。住居も母の住まい近くにアパートを借
りて母との友好関係も復活しました。
 2000(平成12)年3月、子供の頃に抱いていた疑問を1年ほど前から再び感じ、
もしこの組織が真の神の組織でないとするならば間違った教え、悪魔の教えをを説いてい
ることになると思い、組織が禁じている外部の批判情報を一切見ずに、組織の矛盾点を考
えていきました。私は価値観について身に着ける仕方は違うが宗教の価値観と社会の価値
観がほぼ一致しており唯一異なる部分は教義の部分だけであると思っていました。しかし
ながら、「木を判断するにはその実を見れば良い」という聖書の基準に照らすと、会衆や
組織の人々の、特に年長者の言動や価値観や知識の水準は、彼らが批判する世の人々より
も驚くほど低い水準でした。彼らは組織の中枢ですから組織そのものが社会的な限度や価
値観や知識の水準よりも低いということです。また、もし聖霊の働きによって長老やしも
べが任命されることが本当ならば、聖霊の働きは奇跡が現在でも存在することを意味し、
奇跡が存在しないならば聖霊の働きも存在しないはずです。同じく14万4千人の人々や
統治体の人々を、神やイエスが任命したことはどうやってわかったのでしょうか。消費税
を回避するためにすべての出版物をたてまえ上は無料として実質的には寄付扱いにすると
いう決定はだれから、つまり、合法的な租税回避行動をとるようにという聖霊の働きがあ
ったのでしょうか。人間の組織であるとするならば、無料の労働用役を提供してきた開拓
者、特別開拓者、宣教者、会衆の長老などに対する福利厚生制度がまったく整備されてい
ないのは人間の組織として致命的な欠陥です。社会保険料を納付し、組織内に老後生活の
ための貯蓄を積み立て、不慮の事故などにより医療費がかさんだりハンデイキャップを持
ったりした場合の保証をすべきです。「不完全な人間だから間違いも犯す」というのは
「聖霊の働きにより任命される」ということと矛盾します。本当に神の組織であるならば
間違った組織作りはされないはずであり、人間の組織であるならば倫理的に正しい組織作
りをするべきです。事実は、人間の組織でありながら、お粗末でいいかげんなで無責任な
組織であるということです。教義そのものは、マインドコントロールなどというもので疑
問を感じないようにできると思いますが、十代のときに私が感じた疑問に加え、上記の疑
問点はマインドコントロールとは関係なく感ずるはずのものです。2000(平成12)
年4月以降、このホームページの存在や大野キリスト教会の存在を知り、母を説得し、8
月に母とともに断絶しました。
 以上のプロセスを経て、脱会した人も現にエホバの証人の世界にいる人も含めて、親た
ちはマインドコントロールに名を借りて子供の人生を台無しにした責任を回避していると
ころがあるのではないかと思います。どのような教義がいくら説得されても最終的に自分
で信じようと思わなければ信じ切れません。思い切って「飛び込む」瞬間があるはずです。
集会や伝道も「くせ」によるAddiction(中毒性)の状態になっていると説明がつきます。
しかしながら、聖書に書いていることを忠実に実践しようと努力すればするほど、それを
要求している組織や年長者が本来そのとおりの行動をとっているはずであるのにそうでは
ない実態に当然気づくはずです。私の母も組織に対する疑問は持っていました。「すべて
のことを確かめる」勇気を持たずに自分の名誉や都合のために(本当の意味で謙虚になれ
ない、つまり、傲慢なために)わが子を犠牲にしている親たち(特に社会との関わりが少
ない母親たち)が非常に多いというのが現実だと思います。専業主婦の単なる暇つぶしが
自己保身とからみあってマインドコントロールに名を借りて家族や子供を犠牲にしている、
といえるでしょう。親の方たちはどうか真剣に家族や子供の将来のことを考えていただき
たいと思います。信じることは自由ですが、自分の名誉や都合や自己保身のために他の家
族や子供を巻き込まないでいただきたいと思います。脱会した親の方たちはマインドコン
トロールに責任を転嫁せずに自分のしでかしたことの重大さに真摯に向き合っていただき
たいと思います。
 多少過激な表現がありましたことをお詫びして筆をおきます。
 
平成15年10月15日(水) 「中野の元二世」

《編集者より》
克明な人生の記録で、エホバの証人二世が人生の浮き沈みに従って、また母親との関係によって、エホバの証人に入ったり離れたりしてきた様子がよくわかりました。ここでも母親が二世の子供に対して加害者としての役割を果たしながら、実際には彼女も組織の第一の被害者であることがわかると思います。そして悪徳商法でも宗教でも同じですが、被害者になりやすいのは自分の心を簡単に他人に明渡してしまう傾向のある人であり、その意味では被害者自身が自分の心に「鍵をかけなかった」責任もまた問われるかもしれません。われわれはみな失敗から学ぶものであり、油断して被害を受けた人々はそれなりに、その教訓を多くの人に知らせる義務があるかもしれません。その意味でもそのような体験談の投書は貴重なものであると思っています。